2016.03.23
3月23日(水)
今日はきちんと話をつけて、いい加減スッキリしようと心に決めていた。
そして、朝出勤したときに川上課長の姿を見つけた。
まずは、昨日何をしていたのかを聞く。
すると川上課長いわく、昨日は反対派を推してくれていた人々に、
謝罪のあいさつに行っていたという。
本当かどうか怪しかったので、思い切って本題をふってみた。
「動画やパンフレットをつくっていたのは、川上課長ですか」と。
そして、発したひと言が…
「シャー!!!!!!!」
これまでで、いちばん勢いのある威嚇だった。
「反対運動で忙しかったのに、そんなことする暇があったと思うか!?」
と、悔し涙を浮かべながら怒鳴られた。
それがあまりにも本気そうだったので、どうやら川上課長ではなさそうだ。
となると、一体誰なんだろう…。
喜田課長にでも、思い切って相談してみようか。
デスクに行くと、喜田課長は席を外していた。
無人の机のうえには書類が山のように積まれている。
食の拠点推進課って、そんなに激務なんだろうか?
いやいや、人の話を聞きながら寝るような人だ。
ふだんから忙しいそぶりはほとんど見せないしな。
ただ、そう見せておいて、実は・・・・なわけないか。
そんなことを思いながら何気なく書類をめくっていたら、
自分の目を疑うようなモノを見つけた。
あの奇抜な動画の絵コンテだ。
さらに書類をめくると、あわじ国のパンフレットの企画書やら
制作途中のデザインラフやら出るわ、出るわ。
書類の山のほとんどが、あわじ国の広報物に関わるものだった。
何がどうなってんだろう?
書類を前に、頭がくらくらした。
その時、
「どうやら、打ち明けるときがきたようだね」と、後ろから声がした。
ふり向くと、そこに立っていたのは喜田課長。
仕事終わりに、ふたりで飲んだ。
俺の好きな、たまねぎ焼酎が飲める店をセレクトしてもらった。
そして、俺は恐る恐る聞いてみた。
「喜田課長が、動画やパンフレットをつくっていたのですか」と。
喜田課長は、こう答えた。
「ああ、私だ。」
そして言葉をつづけた。
「君が広報大臣なのは、分かっていた。でも、最初からこんな大役を担うのは、精神的にも体力的にもしんどいだろうと思ったんだ…」
妻の言ったとおりだった。影のボスがいた。
それも、よりによって喜田課長だったとは。
なにも返事できなくなった俺に、喜田課長は言葉を続けた。
だが、その言葉も今となっては思い出せない。
酔っ払っていたわけではないのに、どうしてもそこからが思い出せない。
1つだけはっきりしていることは、喜田課長は俺に嘘をついたということ。
優しい嘘だった。でも、その嘘が優しければ優しいほど、
心のモヤモヤが重く感じられた。
こうやって日記を書いている今も、やはり晴れない。
今日は、もう少し飲むことにしよう。